大田内

大田内は「おおたない」で、又「おのだない」と呼ばれることがあるらしい。私がこの地に住み始めたころ少しばかりシイタケ栽培をやっていたことがある。原木を置く場所に困り、ここから洞へ入ったところに置かせてもらった。川沿いはそれほど傾斜がきつくなく、作業がし易かった記憶がある。季節はもうはっきりしないが、山鳥が林間を飛んでいることがあったし、確か隼を見たのもここだったと思う。シイタケにについていうと、残念ながら酷く猿にやられて悔しい思いをした。

大田内は結構な集落なのに、どうやら字名ではないらしい。大字にも小字にも載っていないので或いは通称地名なのかも知れない。始めて聞いた時から今まで、何となく違和感があり、いつか明らかにしたいと考えてきた。

違和感の正体はどうやら「内」にあったらしい。郡上で「内」のつく地名は「垣内(かきうち)」を除けば、それほど多くない。

堤内(三戸、つつみうち)、小田内(市島、おだうち)、川内(小那比、かわち)、堀ノ内(初音、ほりのうち)、門内(初音、かどうち)等である。川内については「かはうち」から「かはち」「かわち」に変化したと想定できるので、これらは全て「うち」と訓で呼ばれていると解してよかろう。これに対し大田内は「おほた-ナイ」と読むので、これが違和感の原因だったようだ。なぜここだけ音読みになるのかが不思議なので、当て字でないかと考えてみた。

大字有穂に「上棚井(かみ-たない)」「下棚井(しも-たない)」という小字がある。これからすると、「大田-内(おほた-ない)」ではなく「大-田内(おほ-たない)」と解せないか。つまり「大-棚井(おほたなゐ)」と見るわけだ。

棚はまさに家の中の「棚」を連想してよさそうで、棚田は郡上でもあちこちに見られる。井は湧き水ないし井戸の意味が考えられる。更に郡上では井普請として用水を引くなども意味するようだ。「ヰ水」はまさに田畑へ引く用水だし、「ヰスギ人足」は用水路などを掃除する人手のことである。これらから、棚井は棚状の田畑へ水が引けるようにした井戸ないし用水路という意味ではなかろうか。

郡上で「棚」のつく小字には特徴がある。私が知る限り「〇〇棚」という具合に「棚」で終わるものが殆んどだ。向棚(高鷲鷲見、むかいだな)、中ノ棚(白鳥大島 なかのたな)、上棚(白鳥北濃、歩岐島、八幡那比 かみだな、うはだな)、岩棚(白鳥二日町 いわだな)、内棚(和良土京 うちたな)、大棚(小那比、おおだな)、松ヶ棚(八幡河鹿 まつがだな)などである。

なぜ「棚田」「棚畑」など語の始めでなく、「棚」が語尾につくのか分からない。或いは山深い地で棚地をつくることが難しく、これを作るのに世代を超えた苦労があり、よってこれを中心にする地名にしたというような背景があるかも知れない。                                               髭じいさん

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