垣内(かきうち)

今年は通常どおり郡上踊りが行われることになっている。まだ新型コロナをすっかり克服できたわけではなさそうだが、皆さんルールを守っていただいて、安全で賑やかな踊りにしたいものだ。

単独に垣内という字名は僅かしかない。美並白山に小字として、その他相生に通称としてあるぐらい。「〇〇垣内」ならかなりある。

「かわさき」に、「向小駄良の牛の子見やれ 親が黒けりゃ子も黒い」という文句がある。ただただ牛のことを歌っているだけなら何のこともないが、私には幾ばくか違和感が残る。

白鳥の向小駄良は長良川本流の右岸にあって、峠を越せばすぐ越前に通ずる。上流を遡れば美濃馬場に行きつくし、白山信仰では馬より牛との関連が深い。

向小駄良には小字として寺垣内(てらかきうち)、下垣内(したかきうち)、上垣内(かみかきうち)、大垣内(おうかきうち)、庄司垣内(しょうじかきうち)がある。

白鳥の小字にはこの他、二日町に堂垣内(どうかきうち)、清水垣内(しみずかきうち)があるし、為真に東垣内(ひがしかきうち)、西垣内(にしかきうち)がある。これらには越前からの影響が感じられる。

また「三百」に、「土京鹿倉のどんびき踊り 一つとんでは目をくます」とある。町衆の思い上がった文句と言ってよかろう。

土京、鹿倉は共に和良の大字だ。垣内(かきうち)の多くみられるのが和良である。鹿倉には小字として十カ所ほどある。全部上げると煩瑣なので挙げないが、郡上では最も集中している。

土京には特に印象に残るものがある。下垣内、上垣内、上之垣内、笠垣内、古垣内の五つあり、古垣内を除いて残り四つはそれぞれ「かいち」と呼ばれるらしいが、古垣内だけ「こがきうち」となっている。

「垣間見る」は「かいまみる」だし、「かき」が「かい」と音便化するのは珍しくなかろう。また「かいうち」が連母音になるので、「う」を失うこともありそうだ。となれば「かきうち」が「かいち」になるのが納得できないわけでもない。さすれば「古垣内」だけがほぼ原音を保っていることになり、「古」を最も「古い」と解すれば、土京における「垣内」が凡て「かきうち」だったとも考えられる。

となると、白鳥と和良の間にある旧明方が気になるところ。垣内と表記する小字が四カ所あるものの、凡て「かいつ」「がいつ」と呼ばれている。私は「かきうち」と「かいつ」はやや系統が異なると解している。いずれ言及するつもりだ。ただ、畑佐の雷垣(かみなりかき)や大谷の三本垣(さんぼんがき)、下村垣(したむらがき)などは「垣」を「かき」と読むので、或いは「垣内(かきうち)」の残存したものかもしれない。                                               髭じいさん

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