御座候

「ござそうろう」と読む。この歳になっても、この世は知らない事ばかり。知らない事でも知っておかねばならないこともあれば、そうでないものもある。前者なら心して準備し着実に身につけなければなるまいが、後者ならまあどちらでも構わないということになる。

私は酒を飲まなくなる前から菓子が好きである。和菓子であれ洋菓子であれ、余程の事が無い限り、ありがたく食べる。正月を過ぎたあたりから、ぜんざいやら干し柿をはじめ和菓子を食べることが多いように思う。

「今川焼」はもちろんご存知だと思う。東京の今川という地名に遡れるそうだ。私は何となく戦国時代の今川義元に由来すると思い込んでいた。元々どんなお菓子だったのか知らないが、今では中に結構な小豆の餡子を入れて外側を香ばしく焼いたお菓子である。

ここ郡上を含め、三重、愛知、岐阜の三県では「大判焼き」と呼ぶことが多い。語源はよく分からないが、愛媛県の菓子メーカーが名付けたもので、ベストセラー小説の人気にあやかって売り出したと云う説がある。とすれば、なぜ東海三県に飛び火して定着したのか分かりにくい。

私の本貫地である兵庫を含め、大阪、京都は「回転焼き」と言っているらしい。私の記憶では確かに回転焼きだった。表か裏か分からないけれども、生地に定量の餡子をのせて焼き、これを回転してもう一面を焼いたから名付けられたのだろう。「二重焼き」と呼ばれるのも恐らくこの系統である。

兵庫県発祥の呼び方に「御座候(ござそうろう)」と言うのがある。なんでも姫路にあるメーカーの名であったものが、そのまま菓子名になったらしい。あちこちに支店ができるようになったからだろう、今では兵庫一円から大阪へも進出している。

同様に富山市の「七越焼き」や滋賀県長浜市の「暫(しばらく)」など、会社名や商品名がそのまま定着するものがあるらしい。

ある研究によると、全国で六十程の呼び方があると云う。これはもうスタンダードをめぐる激烈な自由競争時代と呼んでよい。かくの如く各地に呼び名があって、その内どれかを力ずくで一つに決めるというのは健全でない。共通語を形作るには、ゆっくり時間をかけてその成り行きに任せることを最上とする。

現状、「回転焼き」「今川焼き」「大判焼き」の三つが有力としても、急いではいけない。このまま百年過ぎるかも知れないが、例えば「御座候」が全国展開を果たし落ち着くのであれば、スタンダードになることも考えられる。

美味しくなければ話にならない。郡上では二三ヶ所に老舗がある。チーズ味で人気を博した店があるし、香ばしい焼き方が評判の店もある。                                               髭じいさん

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