富士山、でけぇ!

 12月13日は母親の10回目の命日だったので、お墓参りに行って来ました。母の墓は山梨県の塩山市を見下ろす山の中腹にあります。この日はとてもいい天気だったので塩山市の向こうには南アルプス、その先にででーんと普段より大きめの富士山がそびえていました。真っ白な斜面がぴかぴか光っています。近くの山々はすっかり落葉してなんだかぽやぽやとニホンザルの背中のようです。「のほほん」という音が聞こえてきそうな、のどかな小春日和でありました。
 母はこんな幸せな場所に眠っているのかと思うとうらやましいような気分になってきます。子供におばあちゃんに挨拶をさせたり、花を飾ったり、お線香をあげたりして、お墓を後にしました。それでもって今日はこれでお終い。もう東京に帰ります。富士山目指して進んでいくかっこうなのでどんどん大きくなってきます。ほんとに今日の富士山はどうかしたんじゃないか、と思うほどに大きく見えました。
 塩山の町中を気分良く走っていると、突然お巡りさんに止められました。なんだなんだ、と思っていると警察署に誘導されてしまいました。「はーい、シートベルトしてなかったねえ。」とみょうににこやかな年輩の警官が近づいてきました。やれやれ、と思って車を降りようとすると、子供が「お父さん!逮捕されちゃうの?」とかなり焦っている様子でした。おもしろいので「そうなんだ。逮捕されちゃうんだ。」と言ってわざとらしくしょんぼりとパトカーに乗り込みました。「えーっ、そんなあ!」と、マジで困っていましたが僕がパトカーの中から手を振ると安心したようでした。切符を切られているのを見ていると、前にもこういうことがあったなあ、と思い始めていました。前にもシートベルトでやられたことあるなあ、全く懲りないことだなあ俺も、などとへこんでいると突然「あっ!」と思い出しました。母がいよいよ危ないようだという10年前の今日、名古屋の癌センターと実家のあいだを僕はあわただしく何往復もしていました。よく覚えていないのだけど、そのどこかで僕はシートベルト着用義務違反で捕まっていたのでした。なにか「母が病気なので。」などと言い訳したような気がします。そして警官に慰められはしたけれど、見逃してくれる、ということはなくってしっかり切符は切られた、というようなことを俄然思い出してしまいました。10年を隔てて母の命日に同じ失敗を犯した、ということに僕はなにかしみじみと感動してしまいました。切符切られてにこにこしている僕を警官もいぶかしく思ったかもしれません。
 僕はうすぼんやりしているので、うっかりな行動をたしなめるために母親が何かした、というようなことは感じませんでしたが、それでも久しぶりに母親を近くに感じた、不思議な一日でありました。富士山も妙にでかかったし。

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