誇り

 取り立てて人に自慢できるものがないのにこんなテーマを選んだのは、私が誇りを持って生きていく為ではない。誇りを持って生きている人とうまく付き合うためである。
私の人生は、誠に平凡である。生まれも育ちも、人に自慢できる要素は殆どない。
貧乏人の子沢山というやつで、しかも末っ子であるから、財産を持っているわけでもない。私の知る限り、一族を含めても、目覚しい活躍をした人物は見当たらない。私自身も、まあ、何処にでも居るような人物と言ってよかろう。
食べ物についても、ちゃんとした躾を身につけている訳ではないから、卑しいところがある。美味いものを食べ歩いたことはないのに、憧れの「カツ丼」と「うな重」に拘った時代があった。なんとも恥ずかしい経歴である。
娘達の教育という点でも、殆ど躾をしていないから、人様に自慢できるはずもない。また少なくとも私には様々な分野での才能というものが見当たらない。多少娘達に期待はするが、これまた平凡な親心というやつだ。
私は、車やファッションにあまり興味がないから、新しい風にあたると戸惑ってしまう。逆に伝統を受け継いで、立派な仕事をしているわけでもない。
ただし、故郷に継ぐべきものがないから、逆にどこへでも好きな所で住むことはできたし、また毎日背水の陣であるから、人に気後れするというようなことはなかったと思う。
あーあ。結局私の自慢や誇りは何処にもないではないか。人に抜きん出た思い出というのは、中学生のとき葬式饅頭を五個いっぺんに食べて、親に叱られた位である。ここまで書いて、気がついた。
私が、誇りを持って生きている人達とうまく付き合うのは無理だ。自分を鼓舞し背伸びするのは、若いうちは出来ても、年を取ると疲れる。
自分の寸法通り生きていくのが、平凡だが、一番気楽である。健康を保ち、今を楽しみながら生きていければこの上ない喜びである。

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