私とあたし

私の場合、「わたし」である。「あたし」ではない。「わ」と「あ」が音として異なるのは少し意識すれば分かると思う。わざわざ、このコラムで音の乱れを嘆こうというのではない。「わたし」であろうと「あたし」であろうと、互いに通じていれば大差はない。
私は、ここで唇音について考えてみたいのである。仮名で言えば、ワ行やヤ行・マ行・バ行などにあたる。ヤ行・マ行などについてはいずれ言及するとして、今回はワ行を中心に考えたい。
今のところ[wu]の仮名音が存在したと証明されていないから、ワ行をア行と並べてみると、わ-あ、ゐ-い、ゑ-え、を-お、という風に対応する。「ゐ」「ゑ」は古典で使われるのみで、既に死語に近い。「を」は重要な助詞として使われるので、発音を含め学校で教えることになっている。「ゑ」も名前には使われているようだ。
さて、「わたし」が「あたし」に変化しつつあるとすれば、[w]の退化に伴って、「わ」を含めワ行の音がすべて母音化している傾向がつかめるだろう。
語頭と語中の場合は、この傾向もやや異なるらしい。「皺(しわ)」「川(かわ)」など、語中・語尾にある場合は、劣化しつつも、一応唇音が出せる状況にあるようだ。若い世代では、この場合でもやや発音が難しくなっており、スムーズな会話にならない例が増えているように思う。
このように語頭と語中とを問わず[w]の退化は顕著であって、公共のメディアでも、しっかり発音している例が少なくなってきている。
現在、小学校から英語を取り入れていこうとしている。一方で唇音が退化しながら、他方で[w]のみならず[y][p] [b][m]など唇音に関わる音を綺麗に出すのは難儀なことだ。いっそのこと、外国語を習うのを機会に、これらを再度見直してみるのはどうだろう。
そこで、世の親達に問いたい。あなたの子供は、「あたし」と言っていないか。マ行やバ行は聞き取れる発音になっているか。

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