「日本人救った」

新聞報道によると米政府のロバート・ジョセフ核不拡散特使は、7月3日の記者会見で広島、長崎への原爆投下につき、「原爆の使用が終戦をもたらし、連合国側の万単位の人命だけでなく、文字通り、何百万人もの日本人の命を救ったという点では、ほとんどの歴史家の見解は一致する」と語ったという。
何百万もの日本人の命を救ったのであれば有り難い話であるが、何だか腑に落ちない。近現代史を専門にやっているわけではないので、的をはずすことがあるかもしれないが、黙っていられない気分である。
とりあえず、
1 原爆の使用が、終戦をもたらしたという因果関係ではほとんどの歴史学者の見解が一致しているという点について。
日本降伏の条件であったポツダム宣言ができる前すでに、大統領が投下命令を出している。つまり実際は終末期にあったとはいえ、戦闘中の行為であった。
60年代からアメリカの学者の間では、原爆は日本の降伏よりも、始まりつつあった冷戦を意識してソ連を牽制するためであったとの説が出ているという。
これからすると、アメリカが日本と世界に軍事力の差を見せつけ、既に帰趨の決していた戦争に同国の力を誇示するため原爆を投下したのではないか。
実際のところ原爆の使用と終戦に因果関係がないとは言えまいが、その手段として一説によれば広島だけで30万以上と言われる市民を一度に殺す必要があったのか。更に長崎の市民をである。
2 「文字通り、何百万人もの日本人の命を救った」という下りで、歴史家の見解が一致しているとは思えない。
この「何百万人もの日本人」というのが市民を指しているのか、軍人を指しているのか不明だが、本土決戦で死者が何百万人も出ると想定していたのだろうか、それとも広島・長崎の市民を殺したあの原爆をあと何個使うつもりであったのかを示す史料があるのだろうか。
いかなる理由であれ、無差別な殺戮を肯定できるはずがない。人権を声高に主張する口で無差別大量殺人を正当化し、自らの過ちを認めない者に歴史を語る資格はない。