どんぐりの独楽

女親はお腹をいためて子供を産むので、出産するとすぐに母親になる。いや、お腹の中に赤ん坊がいる時から既に母親が始まっていると言ってよいだろう。
だが、男親は中々そうはいかない。赤ん坊は、まず男親に似るという。自分が男親に似ており、男親に捨てられないで早く情を持ってもらいたいからかもしれない。
赤ん坊の戦略はそれとして理解できるが、人によって遅い早いの違いがあるにしても、男親は少しずつ情が湧いてくるにつれて段々「父親」になっていくのではないか。
爺さん、婆さんにしても事情は変わらない。人間関係としての爺さんと孫なら、生まれるやいなや成立している。だとしても、孫がそれなりに可愛いと思えるには、互いに温度を感じるつき合いを重ねる必要があると思う。
私の場合は、濃密な付き合いが下手であるから、なおさらである。爺さんとして板につくには、少し時間がかかるということになる。
私は孫と散歩に出ることにしている。足も丈夫になってきたようで、この間、二人で急な登りのある紫陽花の道から城山公園へ行ってきた。彼も、遠回りすることが面白いと感じるようになってきたようだ。
途中、何個かどんぐりを拾った。昔の記憶がよみがえってきたからか、何気なく独楽を作る約束をしてしまったのである。どんな風に作ったのか手順がはっきりせず、あとで少し後悔した。一日おいて、とにかくやってみようと思い、どんぐりとにらめっこして構想を練った。
まず形の良いものを択び、尻から千枚通しで穴を開け、楊枝をさして回してみた。どんぐりが立たない。楊枝が長すぎると気がつき、頭の方を少しずつ切っていくと、まあまあ回る。更に先をサンドペーパーで滑らかにしてみると、小さなものでも結構回った。
だが、彼が名古屋で拾っていた大きなどんぐりが最もうまくいったので、私も彼も少し得意気であったことを報告しておく。