自然薯

地元の高校生が学校の畑で作っていた自然薯を食べた。従って、山の中で自然に生えている芋を掘ったというわけではない。むかごから実生で育てたのか、それとも植え替えたものなのか分からない。
なんでも、高校では数人が担当していたが、掘り出すときには応援が十人ばかり必要だったそうだ。地元紙によると、150本ほど掘り出したそうで、さもありなんである。高校で漬物やジャムなどと共に販売したようで、市場に出荷したものではない。私は子供に頼み、格安で一本確保してもらった。長さや太さはいろいろだったらしく、私が入手したものはやや小ぶりだった。
品物についていたパンフレットに、自然薯の風味は皮やその近くにあると書いてあったので、皮を剥がさないよう軽く洗って布巾で拭き、ひげ根を焼いてすり鉢であたる。
我が家では、卵を割り入れ、出汁醤油で雑ぜた。麦飯というわけにいかなかったが、たっぷり白飯にかけて食べたのである。
栽培したといえば、長芋を連想される方が多いのではないか。上手に育てていたからか、確かに姿は長芋に似ていた。ところが、食べてみるとしっかり粘りがあり、自然薯の風味が強く、すっかり違うものであった。
私にとって山芋は旬のごちそうで、一年に一回は食べておきたい。だが大枚のお金を出すわけにもいかないから、ここで暮らしても、なかなか手にいれることは難しい。
かつて何回か天然の山芋を食べたことがある。粘りも香りも強烈で、相当の出汁でゆるめても箸でつまめるほどだった。贅沢至極であり、今ではめったなことで口には入らない。ところが、私は山芋にいくらか「あく」というか、少しえぐみがあるように感じていた。むしろ、畑で面倒を見たものの方が品もよく、ほどよい味がするのではなかろうか。
というような訳で今年は、姿かたちのみならず、なかなか美味い自然薯を食べることができた。都会では手に入れることが難しかろう。田舎で暮らす者のみが得られる贅沢だったということかもしれない。

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