きゃらぶき

所変われば、旬の味も変わる。中部地方もまた梅雨に入ってしまった。皆さんのところではこの時期の御馳走と言えば何だろう。ここらあたりでは、ゼンマイや筍が終り、そろそろ山蕗の時期に入る。とても細くて柔らかいものなら五月中でも手に入るが、値段も高いし、まだ旬にはいささか遠い感じがする。
私は若いころから山蕗が好きで、煮て食べることが多い。時期になると、仲間と共によく山へ入ったものだ。
林道の脇にもよく見られるが、地元の人は「硬い」と言って、採取しない。無論これにしても、下処理が上手であれば、充分食用になる。
経験のある人なら分かるだろうが、蕗は谷筋の湿ったところに群生することが多い。少し蔭にあるものは、適度な太さで、柔らかいものが多い。虫食いも少なく、夢中になって採集する。
ここで気を付けたいのは、
1 山には所有者がいること
2 所有者の了解があるとしても、採取の方法にエチケットがあること
3 周りに気配りして、怪我をしないこと
である。
それぞれ説明する必要もないことだが、くれぐれも採取の方法については気を付けてもらいたい。茎をそのまま引いて根を痛めてはいけない。今年度のみならず、来年以降も採るからである。
根を押さえ気味にし、元を捻りながら引きちぎる感じだろうか。地元では数を採りたいこともあり、鎌を使って元から切る人が多い。
さて我が家では採ってきた山蕗を、すべて大きめの鍋でさっと塩ゆでし、水にさらす。過度のアクを取り、外皮や筋を剥きやすくするためである。
周りでは、鰊などと煮るなら皮や筋の硬いところは取るとしても、佃煮にするならそのまま使うようだ。煮詰めるのでどうせ柔らかくなるし、どうかすると煮崩れてしまうからと言う。さもありなん。
だが我が家では、佃煮にする場合でも、皮や筋を根気よく取るのが恒例になっている。よく煮ても透き通って綺麗だし、味も洗練されているように感じる。
「きゃら」はサンスクリットが語源で黒の意味。「伽羅(キャラ)」は香木の一種で、沈香の良質なものである。また、世にまれで優れたものを褒める言葉としても使った。きゃらぶきは醤油で煮た色が黒っぽく、伽羅に似ているのでつけられたと云う。この点、我が家では皮をむくからか、茶色に仕上がるのでちょっと心配になる。私は山蕗の香りが好きなので、勝手に、香りのよいことも命名の根拠になっていると解釈している。

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