野と原(下) -

数日前に入手した郡上の小字総覧を見ると、「野」「原」のつく地名が郡上市全体に散らばっており、上之保地区に少ないという事実はなかった。ただ、しっかり統計をとって有意の差があるか検査したわけではない。それでもまあ、さほど違いがあるようにはみえない。従って、郡上における差は大字や字など大地名に関する知見として考えていただけると面白いかもしれない。
以上の見地から、再び「宇留良」や「鈴良」など「ら」で終わる地名に迫ってみたい。
すでにどこかで「野原(のはら)」が「野良(のら)」、「川原(かわはら)」が「河原(かわら)」になるように、「は」が抜け落ちる例のあることは言及したことがある。
郡上には「ら」で終わる三音節の地名がけっこうある。「長良」を含め、「宇留良(うるら うんら 那比)」「鈴良(すずら 大和牧)」「須良良(すらら 小那比)」「洲原(すはら)」「安久良(あくら 白鳥越佐)」「小駄良(こだら 河合)」などが思い浮かぶ。このほか姓として「宇多良(うたら)」、職種として「多々良(たたら)」などが記録されている。
なぜ三音節なのかよく分からないが、俳句の五七五が三拍子ではなく、四拍目が隠れているという議論を聞いたことがある。
例えば「古池や 蛙飛び込む 水の音」は、これだけ見れば三拍子だが、四拍目に実際の水の音、例えば「ドボーン」や「チャプーン」が隠れているというわけだ。引き締まった語感と奥行を出すための工夫である。日本語が二拍子ないし四拍子のリズムを踏むことが多いので、理解できないことはない。それからもう一つ。那比の「血取り場」が「ちば」となるように、地名でも実際に音が抜け落ちる例がある。
これらから、私は、「宇留良」「鈴良」に「は」を加えて「宇留-原」「鈴-原」と補えないかと考えた。
むろんこの「原」の他にも、「洞(ほら)」「平(ひら)」「倉(くら)」なども考えられるので、一通りではない。それぞれ地形や歴史などから、一つ一つ検討する必要がある。
「鈴良」の場合、鈴原(すずはら 八幡相生)を原形とみて、「すずはら」から「すずら」になったとするわけだ。或いは発音しにくい音を省いたか。「すずはら」は更に語源を遡れば、「すすき-はら」-「すす-はら」でなかったか。今のところ、この「すす-はら」から連濁して「すずはら」になったと解している。
つまり、「すすき-はら」から「すす-はら」へ、「すす-はら」から「すずはら」へ、「すずはら」から「すずら」へ変化したと考えるわけだ。「洲原(すはら)」はちょっと違ったコースをたどり、「すす-はら」などから「す-はら」になったとも解せる。
またまた、スペースが無くなってしまった。「宇留良」については、旧明方奥住に「漆原(うるしはら)」という村があった。正保郷帳に載っている。「すすき-はら」から「すずら」になったように、「うるし-はら」から「うるはら」「うるら」になったと解せないか。

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