蕗引き

「ふきひき」と読む。この間、私の蕗好きを知っている友人が招いてくれた。長ぐつを履いて来いというので、どこかの山へ行って大量に採るのかなとも思ったが、この期に及んで出荷する気もないだろうし、六月に入ったばかりならどこでも柔らかいだろうから、屋ぐろで採るのだろうと推測した。
現地に着くと、まず朴葉を集める作業を手伝う。蕗は予想通り彼の家の周りにあるものを集めるというので一安心。田んぼのボタや畑でぼちぼち取り始めた。山間地では田んぼの側面がかなりの傾斜になっており、このあたりでボタと呼ぶ。
地面が柔らかいので引くと根を痛めるということもあり、鎌を貸してくれた。根元を切るという意味である。草の長けが大分あったので、根の方に手を持っていくのはちょっと怖いなあと思っていた。六月に入ると蝮が孕む頃なので、凶暴になっている。出会いがしらに噛まれる可能性がある。
奥さんが鎌を貸してくれたのは、根を痛めないようにすると共に、蝮のことを配慮してくれたのかもしれない。ごそごそ音を立てながら、用心してぼちぼち根元を切っていく。私はこの作業が嫌いではないし、ゆっくりやっているのでそんなには疲れない。
途中から主が手伝ってくれて、はかどるようになる。地面がそろそろ乾いてきたからか、蕗をどんどん引いていく。文字通り引いて、面白いように採っていく。私も、同じようにやっていくと、ほどよい所でち切れる。
場所を変えて、もう少しやって終わり。私は細目で柔らかいのが好みだ。我が家は年寄り二人なので、そんなに沢山あってもあぐねてしまう。二軒分にしてはちょっと多めを収穫して作業終了。
そろそろお茶の時間。長ぐつを抜いでサンダルになると途端にリラックスする。庭にテーブルを広げてくれる。爽やかで景色もよいところなので、手足を伸ばし、気分もゆったりする。淹れたてのコーヒーと上等なお菓子。そして何と朴葉ずし。私にご馳走してくれるつもりで朴葉集めを手伝わせたのだとやっと気づく。迂闊なものだ。
久しぶりに会えたので、話もはずむ。彼は自宅であるし、私はまったくの旅気分。夕方になって帰る段になると、これまた凄いことになった。私はワラビも結構好きである。あっさり目に煮てあるもの、和え物にしたもの、しっかり灰汁抜きしてあるものなど、一揃え持って行けという。これだけでなく、蕗とたっぷり二人分の朴葉ずしを持たせてくれた。恐縮ながら、遠慮せず頂くことにした。
蕗は軽く塩ゆでして皮を剥く。この時期の柔らかいものはそのまま調理しても問題ないが、我が家では筋を取りがてら皮をむく。郡上では身欠きニシンと煮るのが旬の食べ方である。我が家は油揚げやジャガイモ等と煮るだけだが、誠に美味い。残りをつくだ煮にしたのは勿論である。

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