郡上の垣内

郡上におけるカイツ地名は小字だけを取り上げても二百前後ある。表記については、崩れてしまったものを除き「会津」「街津」「廻津」「開津」などが使われ、中でも「会津」が最も多い。これに対しカイトは殆んどみられず、飛騨筋と比べると分布に偏りがみられる。郡上のカイツと飛騨筋のカイトに時間差があるのかないのか、もがいている最中である。

カイツの原形を辿るのは容易でないが、「カキツ」がその有力な候補と考えてよかろう。さらに言えば『萬葉集』にある「古き垣内」(4077)「家乃垣内(かきつ)乃」(881)から「垣内」を「カキウチ」とみて、試みに「カイツ」-「カキツ」-「カキウチ」と辿ってみたいのである。

軽く読むのがコラムの良いところ。用例がそれほど多いわけでもないが、余り情報を詰め込みすぎると読んでもらえないかもしれない。そこで、それぞれの地区をゆっくり見てみていくことにしよう。

以下郡上における垣内地名について、小字を見ていきたいと思う。ただ「垣内」の呼称は大字単位で共通する傾向がある点を確認してもらいたい。

ただ郡上と言っても広い。この「垣内」を使う例には偏りがあり、白鳥、明方(明宝)、和良に多く、高鷲、八幡、美並には少ない。この分布は「垣内」の出所を示唆しているように思える。

白鳥の長良川左岸で「垣内」は「カキウチ」を中心として「カイチ」「カイツ」と読まれている。大島地区の「東垣内」「西垣内」はそれぞれ「カキウチ」、中西の「寺垣内」は「カイチ」、阿多岐の「洞垣内」は「カキウチ」で「上小垣内」は「ガイツ」。私の印象では郡上に於いて「寺」がつくと「寺-カイチ」になる例が多い気がする。

向小駄良は長良川右岸にあって峠越しに越前と接している。「寺垣内」「下垣内」「庄司垣内」「上垣内」「大垣内」「弥次郎垣内」ですべて「カキウチ」と呼ばれており、産土社が「垣本(カキモト)」にある点が興味を引く。

明方は大谷地区に会津が五例ある中で「三本垣」「ソラ村垣」「下村垣」という地名の混じっているのが面白い。後者を「垣内」の零落した形とすれば、「カキウチ」と「カイツ」に時間差があるかもしれない。

この他気良の「上垣内」、小川の「脇垣内」「西垣内」、及び畑佐の「小瀬垣内」はすべて「ガイツ」と呼ばれている。「カイツ」が「カキウチ」に被っているとも解せる。

八幡は名津佐を除くと「垣内」と表示するところがない。名津佐は「上垣内」「小垣内」「タント垣内」「岩垣内」でいずれも「カイチ」である。名津佐の「垣先(カキサキ)」、雛成の「小森垣」が関連地名とすれば「カキ(ウチ)サキ」「コモリガキ(ウチ)」とみることができるかも知れない。用例の多い和良については別の機会を設けたい。                                               髭じいさん

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