貧乏閑なし
私は、金より閑を優先してきた。だからという訳でもなかろうが、若いときからずっと貧乏で、これが当たり前になってしまい、あまり貧乏を実感したことがない。
梅雨も近づき、家のあちこちにカビが目立つようになってきた。閉め切ると匂いもするし、胞子が飛んで体に悪そうだから、やっと掃除をする気になった。
ここに至った原因は、屋根の雨漏りである。これに住人の鈍らが加わり、カビが生えるようになったのだ。従ってまず屋根を直せばよいのだが、素人では難しく、またそう簡単に金も出てこない。屋根は応急の措置をとり、こまめに拭き掃除をするほかないのである。
ぼつぼつ始めてみると、これが中々しぶとい。あまり薬品を使いたくないので、ブラシや雑巾だけの手作業だから、まめにやっても綺麗には取れない。何日もやっているのに、はかどらない。
最初は闇雲に雑巾で拭いてみたが、中に入り込んだカビは取れない。そこでしっかりブラシで擦ってみると、まあそれなりには取れる。だが、これではカビが飛び散り、目に見えるほどである。これはまずい。
今度は、カビの生えたところを濡れ雑巾で軽く拭き、ブラシも水でぬらしてこすってみた。そうするとカビが飛び散らず、黒い汁になって流れるようになり、固く絞った雑巾でこれを拭くというやり方を「発見」したのである。
だが、これでは最後のうがいまでかなり時間がかかる。そのしわ寄せから、他のやりたいことが中途半端になってしまい、なんだか毎日がせわしい気がしてきた。
貧乏でも閑があることを優先したかったのに、屋根を直す金が無いことから回りまわって忙しくなってしまい、「貧乏閑なし」になってしまった。と言うことは、やはり先人の言うことが正しいのかなあ。