瓢岳(14) -ホトトギス-

高光が悪鬼の亡魂を退治したあと、瓢岳あたりではホトトギスが渡ってきても鳴くことはなかったと云われている。何故こんなことになったのかはっきりしないけれども、亡魂の鳴き声が雉のようであり、遠吠えがホトトギスに似ていたからとなっている。
今回は気楽に、このあたりでホトトギスが鳴かなくなったとされる理由を考えてみよう。今のところ、次の三つを候補にしている。
1 ホトトギスが冥途へ往来する鳥であること
2 何らかの「聞きなし」
3 託卵の生態
1は、ホトトギスは魂迎鳥(たまむかえどり)、死出田長(しでのたおさ)などの別名があるように、冥界と行き来する鳥だと考えられてきた。
実際のところ、いつごろからこのように解されるようになったのかよく分からない。一つは、蜀の後主である杜宇はまた望帝と号し、国を逃れてさまよう内に魂が変化してホトトギスになったという中国の伝説が考えられる。だから「不如帰(帰るに如かず)」と鳴いているというわけだ。この国でもホトトギスを「杜宇」「蜀魂」「不如帰」などと呼ぶことがある。
2は、「特許許可局」「本尊掛けたか」「包丁欠けたか」「テッペンカケタカ」など悲喜こもごもの解釋がなされている。「不如帰」は故郷へ帰りたいという亡魂の叫びだろうから悲しい話だが、「不如歸去」と聞こえると云うから、中国の聞きなしと関連するだろう。また蜀では「我望帝魂也」とも聞こえたらしい。
本邦のそれでは「本尊掛けたか」が気になるところ。ウグイスが法華経に関連するように、「本尊」が特定の仏様を連想するようなことがあったかもしれない。
「包丁欠けたか」については、『遠野物語』が参考になる。カッコウとホトトギスは姉妹だった。ある日姉が芋を焼いて自分は周りの硬いところを食べ、妹に柔らかいところを食べさせた。ところが妹は姉が先に美味しいところを食べたと思い、包丁で姉を殺してしまった。だから姉は「ガンコ(硬い)、ガンコ」と鳴き、過ちに気づいた妹は後悔して「包丁欠けた、包丁欠けた」と鳴いているという。
3は、カッコウ科で多いらしく、ホトトギスがウグイスの巣に卵を産んで育てさせるという。『萬葉集』に「鶯の 卵の中に 霍公鳥 ひとり生れて 己が父に 似ては鳴かず 己が母に 似ては鳴かず」(卷九1755)とあり、古くから知られていた生態だと思われる。対立する信仰間で、一方がホトトギスを重用するのであれば、他方はこれを喜ばなかっただろう。
結論を急ぐ必要もないが、私は高光が退治したのが悪鬼とその亡魂なので、ホトトギスが冥界へ行き来すること、及びそれに関連する「聞きなし」に魅力を感じている。

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