カワセミ

前回はホトトギスについて触れた。また鳥だが、意識したものではない。山の中に住んでいるのだから、一度や二度はカワセミを目にしたことはある。ところが二週間ほど前、望外にも、目前で狩りをしているのをじっくり観察できた。
印象が鮮明な時に書いておくのが常道だろう。だが、たくまずに抽象できるよう、時間のフィルターに残ったものだけを書くことにした。
観察の上手な人なら、ビデオや写真にとっておくかもしれない。確かな腕を持っている人であれば、うまく撮れそうな場面がいくつもあった。ところが、私はすっかりガラパゴス化してしまっており、携帯さえ所持していない。そんなわけで、しっかり目の奥にとどめる他なかった。
競馬中継が終わった後だから、四時過ぎのことだった。島谷用水と吉田川の間にちょっとした散策用の道がついている。途中大きな欅の下に切石の腰掛けがあり、いつも川へ降りた孫を眺める場所である。なぜか、その時は一人だった。視界に入って来たのは、上流に向かって右側からで、吉田川の左岸にあたる。
丸い大きな石の上に止まった。背中は美しい靑で、目の下と腹がオレンジ色、嘴はやや長くて鋭い。そのときは大水が出た後で、石についたコケが洗い流されており、水が水色だった。濃淡に違いがあるもののカワセミと水が同系の靑で、白っぽい石とも合わせ、図柄としても悪くなかった。
私は、石の周りにたくさん小魚がいることを知っているので、カワセミの狙いはすぐさま理解できた。慎重に構え、一気に水中に潜って白ハエを捕獲したようである。魚を横にくわえて、そして縦方向にして飲み込んだように見えた。
その後も二度、三度狩りをしていたようだが、なかなか成功率が高いようだった。
それから用水へ移動し、木の枝に止まって狩りを続けていたが、しばらくして見失った。
じっくり見ると、カワセミはそんなに大きくない。というよりは、思っていたよりずっと小さかった。私は海辺の平野部で育ったからか、少年時代にカワセミやルリカケスなどを見たことはなかった。切手のデザインで見たぐらいで、ずっとそれらに憧れていた。ところが近ごろ、カワセミはハンターとして派手すぎるのではないかという疑問を持つに至っていた。背の靑には魅かれるけれども、何となく腹がハンターらしからぬ色で気に入らない。
これに対しヤマセミは、その姿がほとんど黑や茶色と白の縞模様で、地味である。この辺りでもめったに見ることはできないが、カワセミの二倍ほどあるのではなかろうか。この存在を知ってからは、その雄大さと勇敢さに圧倒されていた。
だがよくよく考えてみると、腹の色が朝焼けや夕焼けを演出しているとすれば、私の理解力に問題があったことになる。私には、空が空色であること、水が水色であることに限りない憧れがある。カワセミの背中が空の色と水の色を結び付けていることを評価しすぎて、少しばかりの批判精神が緩んでいるかもしれない。

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