板取の地名と郡上(下)

目測を誤ったようである。板取と郡上の間には複雑な関わりがあったようで、地名に絞ってもこのシリーズでは書ききれないことを痛感した。前回触れた河辺(かべ)及び加部を補強するという視点でもう少し掘り下げてみる。
「川浦渓谷」は以前から気になっていた。「川浦」は「かおれ」と読む。去年だったか、友人に連れて行ってもらった時にはなぜか懐かしい気分になった。その時ほどしっかり見たわけではないとしても、何かの折に見ていたのかもしれない。
川浦渓谷は清い水が両岸共に切り立った崖の下を流れている。記憶が正しければ、トンネルを出るとすぐに橋があり、下車して眺めてみると、足がすくむような厳しい地形だった。相当な手練れでもこれを遡行することは難しいだろう。
私はカメラを持たないので、目に焼き付けようと腐心していた。けっこうな時間を楽しんだと思う。ただ頭には、その音の美しさと語源のことが浮かんでいた。病気と言ってよいかもしれない。
さて、「かおれ」と言えば、馬瀬に川上と書いて「かおれ」と読む地区がある。この他、白川に「鹿折」、愛知県に「川売」と書いてそれぞれ「かおれ」と呼ぶところがある。
それぞれ川の際にあることが共通しているし、「か-おれ」の「か」は「かは」「かわ」で異論がなさそうだ。
「おれ」の字面を並べてみると「浦」「上」「折」「売」でばらばらだ。ただ、「上」は馬瀬以外でも用例が見つかっている。
さてどうするか。字に拘るとろくなことにならない。「おれ」という音に注目すると、「浦」「売」が「うら」「うり」でやや近く、「上」は地理上の特徴を捉えている。
一説に「うら」「うらっぽ」が木の先端部分を指すので、川の最上流部を指す用語とみることがある。これなら「上」と意味が繋がっているようにみえる。
ところが、「かおれ」が板取のみならず他の地区でも使われるし、「うら」「うり」の「う」が「お」に出世する例を知らないので不安がある。そこで、今のところ私は「折れ」を中心に考えている。本来川は蛇行するので敢えて「折れ曲がる」を強調する必要もなさそうだが、地形や硬い岩盤に遮られ、流れが折れる所もあるだろう。
「かは-おれ」とすれば、「は」が落ちて「かおれ」になっている。「河辺(かは-べ)」が「(かべ)」になるのと共通しているかもしれない。
私は「河原(かは-はら)」から「かはら」へ略されるのに二通りの理解がなされていると思う。一つは「か-はら」で「川浦(か-おれ)」「河辺(か-べ)」であり、一つは「かは-ら」で「長良(なが-ら)」「鈴良(すず-ら)」などである。
郡上では前者の用例が少ない。例が少ないことから、「河辺」「加部」の繋がりが強いことをそれなりに確かめられたのではなかろうか。

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